金利8%の謎
映画では、フランスの銀行預金金利が1%から1.5%であったときに、ロミー・シュナイダー演ずる女銀行家の銀行だけが「8%」という預金金利によって庶民の小口資金を大量に集めたために、既成の金融業界の激しい反発を被り、彼女は、さしたる根拠もないまま詐欺の嫌疑をかけられて獄中生活を送ることになる。「フランス経済を支配する二百家族」と言われ、実際には婚姻などにより200家族をさらに下回る寡占状態にあったフランスの金融資本家たちが預金金利を不当に低く抑えて暴利をむさぼっていたのに対し、ヒロインの女銀行家は「8%」によって庶民に夢を与えたというお定まりの図式なのだが、現実の金融・経済がそんなに単純であるはずはない。一体全体、1%が「不当に低い」のだろうか、それとも8%が「不当に高い」のだろうか。そもそも、同一通貨でのこのような著しい金利差は、現実に可能なのだろうか。
実は、映画にはこれを判断するための手がかりはほとんどない。当時のフランスのインフレ率も分からないし、基準金利であるはずのフランス国債の利回りや公定歩合も不明である。「映画人は経済のことなんか分かっちゃいない」と言ってしまえばそれまでだ。
しかし、よく考えてみると、低金利の「本当の被害者」は貧困層ではなくむしろ「お金持ち(ブルジョワ)」ではないかという気もする。当時の庶民層には、おそらく銀行に預金するほどの余裕はなかったと想像されるからだ。
預金を「株式」で運用?
さらに、ロミー・シュナイダー演ずるヒロインの女銀行家が、しばしば株式投機によって利益を得ていることも気になる。確かに、世界恐慌前夜の株式市場は活況で、グローバル化の進んでいない当時は1929年のウォール街の大暴落もすぐにはフランスに波及しなかったようである。しかし、いかに活況を呈しているとは言え、預金という「無リスク資産」を運用する場として、株式市場はふさわしいとは言えない。
女銀行家を陥れようとしている金融界のエスタブリッシュメント(ジャン・ルイ・トランティニャン)たちが、これほど重要な問題を何故に取り上げなかったのか理解に苦しむのだが、映画を見ると、どうやら彼女は「預金」の大半を「株式市場」で運用していたらしいと分かる。そして、「昨年は全預金者に、9.32%を支払いました」なんて言っている。しかし、株式で運用しているとすれば、これは「預金」ではなく、「投資信託」ではないのか。
そうだ。これで金利差の謎が解ける。現在の日本の超低金利は(銀行救済の色彩の強い)例外中の例外の異常事態としても、預金金利1%というのは、かなり低金利に属する。一般に、低金利のときは株高となる。だから女銀行家が高利回りで運用できたのは、たまたま株式市場が好況であったときに「株式」で運用していたからで、これに対して他の銀行の金利が低いのは、ごく当たり前に「金利」で運用していたからにすぎないのではないか。預金金利が銀行によって異なるとしても、「金利」で運用する以上は数パーセントもの大差がつくとは考えにくいからである。
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